第20章 なぜ直立二足歩行が進化したか(III)一夫一婦制が人類を立ち上がらせた
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直立二足歩行の利益は変化する?
これまでの推論が正しければ、以下のような場合には、直立二足歩行が進化するのではないだろうか
一夫一婦制(か、それに近い社会形態)になったために直立二足歩行の利点の一つが大きくなり、欠点を上回った場合
「太陽光が当たると面積が少なくなる」「頭部が地面から離れるので涼しくなる」「遠くが見渡せる」
一夫一婦制とは関係なさそう
これら3つは直立二足歩行が最初に進化したのは草原ではなく森林あるいは疎林であるという現在の説に合わない
「大きな脳を下から支えられる」
関係なさそう
脳が大きくなり始めるのは約250万年前
「両手が空くので武器が使える」
現在ではほぼ否定されている
「エネルギー効率がよい」
一夫一婦制とは関係なさそう
「両手が空くので食料を運べる」
運ばれる人が得をする
一夫一婦制と直立二足歩行
その集団の中の1頭(仮に雄とする)に突然変異が起きて、直立二足歩行をするようになったとする(もちろん1回の突然変異では無理だが、ここでは単純化して) この直立歩行は子に遺伝するとする
直立二足歩行をする雄は、雌や子どもに食物を手で抱えて運んでくる
その子どもは食物を運んできてもらえない子どもよりも生き残る確率が高くなり、子を残す確率も高くなる
一夫多妻の場合は雄が積極的に子育てに参加することは考えにくい
多夫多妻の場合、どの子が自分の子かわからない
一夫一妻の社会ならば、ほぼ自分の子と考えてよい
生存率や繁殖率を高くしてあげた子は自分の子
自分の子は直立二足歩行が遺伝するので、その子が生き残っておとなになれば、直立二足歩行をする
「両手が空くので食料を運べる」ことは直立二足歩行の利点の一つである
得られる利益の大きさは社会形態によって変化する
一夫一妻の場合に利益が大きくなる
肉食獣に食べられることも必要
中間の不完全な一夫一妻性はどうだろう
自分の子にも他人の子にも食物は運ぶが、自分の子により多く食物を運ぶ場合
この場合も直立二足歩行は進化する
たとえほんの少しであっても、他人の子より自分の子の方が生存率や繁殖率が高ければ、直立二足歩行は進化する
初期の人類でいきなり一夫一婦制が成立したとは考えにくい
多夫多妻的な社会の中で一夫一妻的なペアが形成されるような中間的な社会を経由した考えるほうが自然だろう
両極端を考えがちだが実際には中間的なことが多い
初期人類が草原を直立二足歩行で歩いていたとしよう
肉食獣に襲われたらひとたまりもない
しかし、その場合でも、たちまち全ての人類が肉食獣に食われまくってあっという間に絶滅するわけではない
ヒヒは四足歩行で素早く走ることができる
しかし捕食されることもある
ある研究では50頭の集団で1年間に捕食されるのは1~2頭
初期の人類が捕食される割合はもっと高かったかもしれない
50人の集団で1年間に5人ぐらい子ども産むことはなんとか可能だろう
しかし、50人の集団で1年間に10人くらい食べられたらさすがに人類も絶滅するだろう
だが人類は生き残ったのだから、捕食されただけの人数を産むことができた
そもそも肉食獣に食べられなかったら、人類は爆発的に増えてしまう
直立二足歩行には欠点も利点もあったが、昔は欠点の方が大きかった
ところが、あるい類人猿のグループで、不完全ながらも一夫一婦的な社会形態が発達すると、直立二足歩行の利点が大きくなり、欠点を上回るようになったのだろう
人類の一夫一婦制は特殊
人類の一夫一婦的なペアはとても珍しいこと
テナガザルのように一夫一婦的なペアをつくる種はいるが、それらの種では、ペアと子どもだけで暮らしている 集団生活をしながらその中でペアを作っているわけではない
テナガザルがペアである2匹だけでも暮らしていけるのは森林に住んでいるから
森林は危険の少ない環境なので、集団で肉食獣を警戒したり追い払ったりする必要が少ない
一方、疎林や草原のような危険の多い環境では、ヒヒのように集団生活をしなければ暮らしていけない
しかし、集団生活の中で一夫一婦的なペアを作ることは難しいので、人類以外にそういう種はいない
集団生活の中でペアを作ったのは人類がはじめて
集団生活のペアも直立二足歩行も、他の霊長類には見られない人類だけの特徴である
もしかしたら両者の間には関係があるのかもしれない